チャンドラの杯
 掌の中で刃を反転させる。立ち上がりながら逆袈裟に、目の前の貫頭衣を斬り上げる。
 赤い霧を吹き出して倒れる男と、立ち上がった私を見て村人たちが一歩後ろに下がる。

「馬鹿な」
「薬が効いていないのか」
 私は刀を構えて建物の出口へ走った。
「いいから早う殺せ! 貴重な肉を逃がしてはならん!」
 村長がわめいた。

 包丁を振り翳して躍りかかってくる男の胴を薙ぐ。棍棒を打ち下ろす女の首を飛ばす。出口の布を斬り払って外へと飛び出す。

 鎌や木製の槍を構えた村人たちが周囲をぐるりと包囲していた。一瞬、私の足が止まる。が、すぐさま突き出された槍を躱して若者を斬り倒し、掲げた鎌ごと老人を断ち割って、私は村の外へと走り出した。あと少し、あと少し・・・・・・というところで。
 大地に根を張ったように、私は動けなくなった。

 私の行く手には、包丁を握り締めた少女が立っていた。
「ユイファ──」

 何の迷いもない澄んだ瞳で。
 白い衣の女の子は、私の胸を突き刺した。

 手から刀が滑り落ちる。地面に落ちた私の刀を、ユイファが拾い上げた。彼女の髪で、月光を浴びた白い花が蒼く輝いている。
 膝をついた私は少女の表情を見た。

 私の全身に槍や鎌が突き立てられるのを、ユイファは微笑みを浮かべて眺めていた。
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