チャンドラの杯
「死んだか」
 動かなくなった私に、村人たちがゆっくり近づいてくる。
 私の腕から、結んだ布がほどけて落ちた。
 ひたり、と貫頭衣たちが止まるのがわかった。

「傷が・・・・・・」
「ヤッカにやられた傷がない・・・・・・」
「傷が消えている」

 私の肩でぽこぽこと肉が盛り上がり、めり込んだままだった包丁が押し出されて地面に落ちた。胸に刺さった少女の包丁が、突き立てられた槍が、鎌が次々と体から押し出されてゆく。

「ヤッカだ」
 誰かが呟いた。
 ヤッカだ。ヤッカだ。たちまち群衆に落胆が広がる。

「何ということだ」
「ヤッカの肉では食べられない」
「ああ、久しぶりの肉が・・・・・・」
 火を、と誰かが言う。殺せ、ヤッカを焼き殺すのだ。
 視界の端にたいまつの明かりが映った。

「ユイファ、刀を・・・・・・」
 私は刀を抱いた少女の名を呼んだ。
「私の刀を返してください」
 頭から臭い液体を浴びた。油だった。
「刀を、早く・・・・・・」
 伸ばした手の先で、ユイファが後ろに下がった。たいまつの炎が近づいてくる。
『やれやれ。こいつはどうにもならないねえ』
 足元がくつくつと笑う。
「早く・・・・・・」
 私はユイファに懇願した。
「駄目だ・・・・・・早く・・・・・・」
 少女は動かない。
『限界だね』
「駄目だ!」

 ゆらりと、突き出された炎が影法師を怪物の如く伸び上がらせる。

「やめろキョウゲツ!」
 叫ぶと同時に私の意識は影に堕ちた。
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