チャンドラの杯
 ユイファは黒い瞳を大きく見開いて、「彼女」を見ていた。

「お姉さんは、だれ?」

 一瞬前までユイファの腕にあった刀は「彼女」の手に握られ、刀を抱いていたユイファの腕は大地の上に転がっている。
 たいまつを手にした村人は喉から鮮血を夜空に吹き上げ、降り注いだ血で炎は消えてしまっていた。

「叶月さん?」
 少女の問いかけに、「彼女」はゆっくりと中天の月魂を見上げた。

「私は狂月」

 冴え冴えとした月気が降り注ぐ中、赤く輝くヤッカの双眸が微笑む。
「狂ったお月様だよ、月華(ユイファ)ちゃん」

『ああ』
 影法師となった私は何も出来ずに、地面からただその光景を眺めていた。
『やめて下さい、狂月!』
「叶月を傷つける者を私は許さない」
 真横に薙いだ刃が、白い花をつけた小さな頭を夜空に舞わせた。
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