チャンドラの杯
 トランクを片手に屍の中を歩いていた私は、村の中程で歩みを止めた。

 砂漠の植物が、月光の下で白い大輪の花を咲かせている。
『君には、純白の花なんか似合わないねえ』
 そっと手を伸ばしかけると影法師が言った。

「知ってますよ、そんなこと」
 私は指を引っ込める。月の光を名前に持った少女を思った。
「でもあの子には・・・・・・」
『ん?』
「あの子には、純白の大輪がよく似合っていました・・・・・・」
『そうだね』

 天を仰いだ。白い満月は、やっと傾き始めたところだった。

『まだ、夜は長いよ』
 影法師は言う。
『この村で眠るかい?』
 そんな気分にはなれそうもない。
『じゃあ、線路に戻ろう』
 私は頷いた。うん、線路に戻ろう。あの線路がどこへ続くのか私は知らないけれども。
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