チャンドラの杯
 優しい砂の感触を裸足の下に感じながら歩く。
 錆びた鉄のレールは、月の光に照らされて銀色に輝きながら待っていた。

 裸足に触れる感触が砂粒から錆びた鉄に変わる。たった一人で私は歩く。辺りに人影は無い。道連れは影法師だけだ。

 月が西の空にさしかかる頃には、人ではない者たちがいた廃墟はすっかり見えなくなってしまっていた。
 それでも線路はずっと続いている。砂と岩と疎らに生えた植物の間を、月明かりの地平の果てまでずっと伸びている。

「ねえ、影法師くん」
 私は空を見上げた。真っ白な顔の月がぽっかりと口を開けた青藍の空を。

「誰が、世界を・・・・・・こんな風にしてしまったのでしょう・・・・・・」

 吹き下ろしてきた月の風が、足の隙間を駆け抜けてゆく。
 影法師はひっそりと黙り込んだ。

 月の明るい静かな晩だった。
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