チャンドラの杯
 不思議な音が聞こえてきたのは、お昼ご飯を食べ終わった僕たちが、もう一度浜辺へ向かおうとしていた時だった。

 風の音に似ているけれど少し違う感じ。その音はもっと低く、地鳴りのように響いてくる。
 ココが不安そうに僕を見た。辺りを見回すと、町を囲む塀の外に土煙が上がっていた。

「何だろう」
 僕とロエンは顔を見合わせる。
「船かな」
「陸から船は来ないよ」
 ロエンが土煙を睨みながら言った。陸から来るのは・・・・・・。
「ヤッカかもしれない」

 僕はすぐに腰の革袋からガンナイフを引き抜いた。
 ココが小さく震える。土煙に向かってロエンが駆け出して行く。町の人たちに伝えるようココに言って、僕もガンナイフを構えて彼の後を追う。

 ヤッカは町の外から来る魔物だ。鋭い牙と爪で人間を切り裂いて食べてしまう。
 恐ろしい魔物だけれど、ガンナイフがあれば大丈夫だ。現に僕たちは町を襲ったヤッカを何度も退治したことがあった。

 塀の外まで走り出て、僕とロエンは足を止めた。

「あれは・・・・・・」
 真っ直ぐに僕たちの町に向かってくるものを見て、ロエンが茫然とした声を出した。僕も立ち尽くしていた。

「ヤッカじゃない」
 背筋が冷たくなる。

 そこには巨大な怪物がいた。
 見たこともない巨大な怪物が、土煙を上げて凄い速さで走ってくる。怪物はギラギラ光る大きな目玉で僕らを睨み据え、凶暴な雄叫びを上げた。
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