チャンドラの杯
 ロエンが、彼のガンナイフを引き抜いて構えた。
 僕も慌てて身構える。
 掌の中にあるガンナイフをこんなに頼りなく感じたのは初めてだ。

 僕とロエンの目の前まで来て、怪物はぴたりと動きを止めた。
 斬撃可能圏内に入った隙を逃さず、僕がガンナイフの刃を飛ばそうとした瞬間だった。

「待って!」

 突然人の声がした。
「俺たちは怪しい者じゃないよ」
 僕は吃驚した。怪物の背中に人が乗っていたのだ。それも二人も。

「驚いたなあ」と、大人しくなった怪物の背中で男の子が言った。
「こんなところで人に会うなんて」
 そう言って僕とロエンを眺める知らない男の子の隣には女の子がいた。
 女の子はとろんとした瞳をしていて、どこか遠くのほうを見ている。

「もしよければあなたたちの町に入れてもらえないかな」
 男の子が僕の後ろにそびえる塀と僕とを見比べて言った。

 僕は男の子の乗っている怪物を眺める。どうしたら良いかわからなくて戸惑っていると、黙っていた女の子が静かに唇を動かした。
 不思議な響きがその唇から漏れた。

「魔法だ」
 火と油を持ってきたココが、僕の後ろで声を出した。
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