チャンドラの杯
 シドとソーマはディーディと一緒にずっと旅をしてきたのだそうだ。今夜泊まるところはないかと言うので、住む人のいなくなった建物に案内してあげた。

「こりゃ凄いな」
 町の中に作られた野菜を作る畑や、水を巡らせる用水路を見てシドは目を見張った。

「ここにはちゃんと食べる物があるんだね」
「外の世界にはないの?」
 僕が尋ねると、シドは「こんなふうにはないね」と答えた。

 町の人たちは遠くからディーディを怖々見ていた。
 誰も積極的に話しかけたり、近寄ってきたりはしない。
 そういう決まりだった。病気を広げないため、塀の外から来た人間にはあまり関わってはいけないことになっているのだ。

 でも、僕とココはシドたちと話をしてみたかった。
「あんな呪文、初めて聞いた」
 ココがソーマに言った。
「呪文って?」
 シドは不思議そうな顔をした。
「さっきの、魔法でしょう。ええと・・・・・・」
 ココがソーマの真似をしてヘタクソに呪文を唱えた。

「駄目だ、ソーマみたいに上手くできない」
 ココはぺろりと舌を出して照れくさそうに笑った。
「ああ」とシドが何かを得た表情を作る。
「魔法か。ふうん、魔法、ね」
 奇妙なものを見るように僕とココを眺め、シドは感心した様子で何度か首を振った。ソーマは不思議そうに首を傾げている。
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