チャンドラの杯
 ココの手から空へと、黒い羽をひらひら動かして妖精が舞い上がった。
「ソーマとシドは旅をしてきたんだよね」
 青い空を自由に飛んでゆく妖精を、ココは眩しそうに見上げている。
「外ってどんな世界?」
「そうだなあ・・・・・・」
 シドが困ったように金色の髪の毛を掻いた。
「一言では説明しづらいな」
「外にはヤッカがたくさんいるでしょう。危険じゃない?」
「ヘーキだよぉ」
 ソーマがクスクス笑った。
「シドが守ってくれるもん。ねーシド」

 微笑んで、シドはソーマの頭を撫でた。
 ソーマの隣でココがクスクス笑って、ソーマの耳元に口を近づけて囁いた。
「素敵だね。シドってどんな人?」
 ソーマも、黒色の頬をきゅっと吊り上げてクスクス笑った。
「優しい人だよぉ。シドはすっごく優しい人」

 魔法の呪文を唱えていた時のように幸せそうに、ソーマは言った。
 それからソーマは僕を見て尋ねた。

「シオンたちは病気なの?」
「そうだよ」
「いつから病気なの?」
「ずっと」
「ずっと?」
「ずっと、だよ。生まれた時からずっと病気なんだ」
< 30 / 78 >

この作品をシェア

pagetop