チャンドラの杯
「でも、治るんでしょう」
「治らないよ」
 ソーマが僕の顔をまじまじと見つめた。
「絶対に治らない病気なんだよ。知らないの? 世界を滅ぼした恐ろしい病気だって聞いたもの、だから」
 だから。

「だからそのうち死ぬんだ」

 ソーマは何のことかわからないという様子で首を傾げた。シドが、険しい顔で何事かを考え込んでいる。

「でも船が来れば・・・・・・」
 ココが太陽の傾き始めた海の彼方に視線を送った。
 僕も水平線を見る。相変わらず何も無い、静かな白波が続く海。
「船が来れば助かるんだ」
「船?」
「そう。この海の向こうから来るんだよ」
 僕は言葉に力を込めた。
「蓬莱島っていう島から来るんだ。蓬莱島には、どんな病気も治す薬があるんだよ。だから誰も死なないんだ」
 そう、船は来る。
「船が薬を持ってきてくれれば、僕やココや、町のみんなの病気も治るんだ。ロエンもこんなふうにならずにすむんだよ」
 間に合って欲しい。
「こんな・・・・・・醜い姿にならずにすむんだ」

 僕は両手を握り締めて水平線を睨む。諦めたようなロエンの眼差しを思い出していた。
 美しいロエンの姿が、病気のせいで僕やココのように崩れてゆくのは嫌だ。
 絶対に嫌だった。
< 32 / 78 >

この作品をシェア

pagetop