チャンドラの杯
 力を失っていたマザーの体が動いた。

「よく見るんだ、シオン」
「なあに! 何のこと」
 僕のほっぺたを涙が伝った。
 マザーの顔の真ん中でぽこぽこと肉が盛り上がり、シドにつけられた傷が塞がる。同様に服の下で傷が再生し、肩口と足の出血も止まる。

「そいつは──きみたちのマザーは、死なないんだ」

「当たり前だよ。マザーは病気じゃないもの」
 僕は泣きながら華奢なマザーの体を見つめた。できることなら抱き締めてあげたかった。
「病気じゃない人は、怪我をしてもすぐに治るんだよ!」

 でも、痛かったでしょうマザー。顔と手足に穴が空いたんだもの。

 僕はシドを睨みつける。どうしてなのかはわからなかったが、シドは愕然とした表情を浮かべていた。
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