チャンドラの杯
「医者」と、マザーは答えた。私はザイダンの、医者。

 シドが息を呑んだ。

「わかる? 私の言葉が」
「──ああ。わかるよ」
 シドの表情が一変する。怒りは消え、別の感情が顔を覗かせていた。
「ザイダン。財団ってまさか・・・・・・」

「アンブロシア財団」

 おお、と彼の口蓋から声が漏れた。
「まさか──まさか──」
 彼は何度も繰り返した。
「・・・・・・会えるなんて。本当に会うことができるなんて」
 彼はありありと期待の滲んだ双眸をマザーに向けた。

「では・・・・・・では、あなたなんだな。あなたが彼らの病を治療した」
「治療? してないわ」
「しかし、」
「できないもの。私には治療なんて。だから待っているの」
「・・・・・・。待っているって、何を?」
「シオンから聞かなかった? 薬よ。世界を滅ぼした恐ろしい病気を治してくれる薬。世界を救ってくれる薬よ」
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