チャンドラの杯
 マザーは優しい顔を僕に向ける。
「シオン、今日は来たの? 船は来た?」
「来なかったよ、マザー」
 僕は悲しい気持ちで首を横に振った。
「まだ、船は来てない」

「そう。でも明日は来るわね。きっと来るわ。あの人がね、約束してくれたの。船で薬を届けに来てくれるって。私に会いに来てくれるって」

 徐々にシドの瞳が希望を失ってゆくのがわかった。
「では、シオンや、この町の人々は──」
「私の子供よ」
 マザーは誇らしげに微笑んだ。

「みんな私とあの人の子供。ここで私が生んだの」

 ここで?
 シドはマザーの言葉を反芻して、それからよろよろと部屋の奥に歩いていった。
「揺籃室? 揺籃室って・・・・・・」
 ああ! シドは絶望の声を上げた。
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