チャンドラの杯
「これは──」
「新しい子たちだよ。これから生まれるんだ」
 僕は戸惑いながらシドに教えてあげた。
 そこに並んだたくさんの『ゆりかご』──人工子宮を指さして。

「みんなそこでマザーが生んでくれたんだよ」
 そうか、とシドは頷いた。凍結保存された汚染前の遺伝子を使ったのか。
「あなたは・・・・・・彼らを作ったんだね、マザー」
 マザーは優しく微笑んで、嬉しそうに『ゆりかご』に近づいた。
「さあ、そろそろこの子たちに魔法の呪文を聴かせてあげる時間ね」

 シドはしばらく黙っていた。
 やがて「いきなり撃ったりして悪かったね」とマザーに謝った。それから部屋を後にしようとして、何か思い出したようにマザーの背中を振り返った。
 疲れたような、何かを諦めたような目だ。僕はこういう目を知っている。
「ロエンは?」とシドが口を開いた。

「マザー、あんたロエンのことは知っているの?」

「ロエン? ああ、さっきまでここにいたのだけれど。上かもしれないわね。シオン、あなたからも言っておいてくれる? あの子、危ないって言ってるのによく屋上にいるから」
 僕は頷いた。

 シドが「・・・・・・そうか。よくわかったよ」と呟いた。
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