チャンドラの杯
 くう、くう。白い鳥が泣いている。波は優しい音で慰める。

今日も、水平線の向こうから船は来ない。
 空はこんなにも青いのに。海はこんなにも青いのに。

「シドたちは今頃どこにいるのかなあ」
 隣に座ったココが呟いた。
「きっと、遠くだよ」
「うん、遠くだね」
 ココは、ソーマの唱えていた魔法の呪文をヘタクソに口遊む。

 ココの髪の毛は白い。砂浜と同じ色の白い髪を僕は撫でた。

「船、今日は来るかなあ」
 ココが言う。ふわふわしたココの髪。髪を撫でる手を、僕は止めた。
 ロエンとシドが昨日話していた内容は、ほとんど僕にはよくわからないものだったけれど。

 船は、来ない──。

「来るよ」
 僕は水平線を睨む。あの屋上で、ロエンがよく見つめていた海の彼方を。
「今日こそはきっと、来る」
 力強く言った。

 ココがうん、と歯を見せて笑う。
 真っ白なソーマの歯とは違って黄色いココの歯が覗く。

「ココはねえ、ソーマから教えてもらったんだよ」
「何を?」
「世界を滅ぼした病気の名前」
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