チャンドラの杯
 ココの瞳はきらきらしている。少し黄色く濁っているけれども。

「『ソーマ病』っていうんだって」とココは言った。

 僕はちょっと目を丸くした。
「ソーマ?」
「うん、そう。ソーマの名前とおんなじ」
 ふうん。頷きながら、思い出していた。

 僕もシドから教えてもらったのだ。

「シオン、ココ」
 背中から、いつもの優しい声が僕とココを呼ぶ。
「お昼ご飯だよ。マザーのところに行こう」
 ロエンが手を振っている。
 僕は立ち上がって、お尻に付いた砂を叩いた。
 ココの手を引っ張って起こしてあげる。それから。
「競争だ」と言って、僕はロエンの所まで砂浜を駆け出した。
 きゃあきゃあ声を上げながらココが追いかけてくる。

「船は、来た?」
 辿り着いた僕に尋ねるロエンの髪の毛は黒い。ココの真っ白い髪や、半分白くなってしまった僕の髪とは違って。
「まだ」
 僕は答えた。「そう」と、ロエンは美しい顔を動かして静かに呟いた。

「きみは自分の姿を醜いと言ったけれど、俺はそうは思わない」
 ソーマと二人で出発する前、シドはディーディの上から僕に言った。
「むしろ美しいと思う。それこそが、人間の本来在るべき道なのだから」
 そして、彼は教えてくれた。
「俺はきみたちの病気の名前をよく知っているよ」

 それは「老い」という名の病だ、と──。
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