チャンドラの杯
 覚えているのは私を映す黒い瞳と、この上なく嬉しそうで、幸せそうな──残酷で無垢なヒナの笑顔。

「おめでとう、嬉しいよ」
 干からびた喉から、私は辛うじて言葉を出した。
「お幸せに」

 ありふれたお話。
 二人の男が同じ女性に恋をする。
 二人は親友。一人は裕福な家庭で育ったボンボンで、金しか取り柄のない男。
 一方のもう一人は家こそ裕福ではないものの、努力家で明晰な頭脳の持ち主で、己の力のみで偉業を成し遂げた。
 当然の如く運命の神の祝福は、未来を切り開いた男に与えられる。
 女は彼を選び、結婚する。

 オメデトウ、嬉シイヨ。オ幸セニ?

 心にもないことを!

 笑い合うヒナとロビーを背にして、私はパーティー会場から逃げ出した。
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