チャンドラの杯
 彼女は不思議そうに視線を動かして、やや離れた位置で停止している私たちの車を眺めた。
「車・・・・・・」
 私はそんな彼女を凝視した。致命傷の筈の傷が治った。この女性はヤッカだ。
 だが──。
「ああ、ごめんなさい。ジロジロ見てしまいました」
 だが、そう語る彼女には明らかに知性と理性がある。
「動いている車を見たのは随分久しぶりだったものですから」
 しかも、「車」というものを知っている。

「あなたもヤッカですね?」

「はい、そうですよ」
 私の問いに、女性はあっさり首肯した。
「『あなたも』・・・・・・?」
「俺もですよ」

 私は懐にレーザーバレルをしまって、普通の拳銃を取り出した。

「必要ならば証拠を見せようか」
「結構ですよ! どうぞ拳銃なんかしまって下さい」
「やはりこれが銃だとも知っている──あなた、文明人ですね? いつから生きてるんです? あなた、ええと・・・・・・」

 いつのまにか陽が高くなっていた。
 女性の足下に、黒々とした影法師が落ちている。

「ああ、私はキョウゲツといいます」
 女性はそう名乗った。
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