チャンドラの杯
 瞬間、私は大きく後ろへと飛び退いた。

「見覚えのある顔だねえ」
 真っ赤に輝く双眸が、笑みの形に歪んだ。
 その右手には抜き身の刀がぶら下がっている。
「よく避けたね。良い反応だ」
「叶月さん、何を・・・・・・」
「それは彼女の名だね」

 東洋の居合い──というのか。突然斬りつけてきた女性を、私は愕然としながら眺めた。

「私は狂月──狂った月だ」
 表情も、喋り方も、声すらも違う。
「ああ、初対面だが自己紹介なら不要だよ。君のことならよく知っているからねえ」

 私に向かってそう言う女性は、先刻までとはまるで別人だった。

 豹変した女性に混乱しつつも、私は左手で懐から一度はしまったレーザーバレルを取り出した。
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