チャンドラの杯
 先刻と同じように油がかけられ、火が点けられた。家財道具に燃え移らないのを確認して、外に出る。

 たくさんの貫頭衣と引き絞るような嗚咽が私を迎えた。
 子供を抱いて泣き崩れる女の人を、白い貫頭衣たちが遠巻きにしている。村人は血に濡れた私の刀と、血の滲んだ私の腕を心配そうに見比べた。

 私は慌てて懐から布を出して腕を縛った。
「私は大丈夫ですよ、爪で引っ掻かれただけですから」
 くつくつと影法師が笑った。
『危ない危ない、噛まれていたらマズかったねえ』

 私は村人の一人が差し出してくれたたいまつで、ヤッカの血が付いた刃を炙った。
「ユイファ!」
 村人の中から声がして、私はそちらを見た。白い花をつけた少女がいる。彼女の母親と思しき貫頭衣の女性が、ユイファを抱き締めていた。

「お姉さん!」と私を見てユイファが手を振った。私も微笑んで手を振り返す。
「旅の人だよ。向こうの遺跡の上にいたんだよ」
 ユイファが私を紹介してくれた。
「叶月と言います」
 顔を見合わせていた村人に、安堵の色が広がった。
「ヤッカから助けてくださった旅の方におもてなしを」
 村長が言って、貫頭衣たちの顔が笑みを浮かべた。
「今夜はお祭りだ」
「さあさあこちらへ」
 促され、私は影法師と一緒にその場を後にする。

『お祭りねえ』
 足元が嘲笑った。

『彼らには見えていたのかな? ヤッカが人の姿をしていたことがさ』

 私はもう一度、炎に包まれたヤッカを振り返る。啜り泣いている女の人が、両肩を支えられて貫頭衣の群の向こうに消えていった。
 ユイファが笑顔で私の手を引いた。
「叶月さんのおかげで、今夜はごちそうが食べられるよ」
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