チャンドラの杯
「君らの顔は大昔にニュースでよく見たよ。二人とも地球に戻っていたとは驚きだねえ」
 そう言いながらゆっくりと刀を降ろす。

「あんたは、いつから生きてる?」
 私がもう一度尋ねると、目の前の女は横手に伸びる赤茶けたレールを見た。

「この線路が『大陸大環鉄道』、或いは『シルクロード-シベリア大鉄道』と呼ばれていた時代から」

「それは──」
「覚えておくといいよ、シドニー・アシュトン。叶月も私と同じことができる。彼女と私の違いは、躊躇うか、躊躇わないか、それだけだよ。そして私は常に見張っている」

 影法師の中から──。

 そう言うと、女の瞳から赤い輝きが消えた。

 黒い瞳が一瞬だけ虚ろな表情を作って、すぐに慌てた様子で刀を納めた。

「ごめんなさい!」
 呆気にとられる私たちに、女は頭を下げて謝った。
「狂月がとんでもないことをしました!」
 声も口調も、最初に出会った時に戻っている。

 私はようやく、構えていたレーザーバレルを降ろした。
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