チャンドラの杯
 何百年かかるとも知れぬ旅に出た筈の船は、漆黒の宇宙空間で今その進路を変更しつつあった。

 いつも通りの定時連絡を待っていたのだろう。
 私の報告を受けた管制官からは、電波の往復分の時間を差し引いてもたっぷり余る沈黙の後、報告を再度繰り返すよう指示が届いた。

「了解。報告を繰り返す。本移民船はソーマ・セレニティとシドニー・アシュトンを除く全ての乗組員が死亡したため、移民計画を中止しこれより地球に帰還する」

 再び長い長い沈黙。
 そして船体の損傷の有無と、乗組員死亡の原因を尋ねる通信。

「船体の状態は至って良好。乗組員が死亡したのは、この私シドニー・アシュトンによって殺害されたためである」

 更に長い沈黙の後、当然の如くどういうことだ、状況を詳しく説明しろと返信が来た。
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