やがて足が止まるまで
始まりの章
■第1話
 今日も海が凪いでいる。予報によると、晴天は一週間続くという。海に反射する細切れの光を見つめながら、ハロは自転車を軽々とこいだ。太陽の熱が体に届く前に、海風がその熱を消し去る。カモメ街道と名のついた青い看板を通り過ぎる。
 今日から待ちに待った夏休みだ。明日から、どこの洞窟に探検に行こうかな。久々に遺跡もいいかもしれない。その前に、サダオじいちゃんにバイトはほとんど休むって言わなきゃ。
 自転車は、たまに軍用車しか通らない道路を横切り、レンガ造りの商店が並んだ夕焼け街の中へ入った。レンガの色が夕焼けの色に似ているから、その名がついたらしい。市のパンフレットによると、1000年続く由緒正しい街ということだ。文明が始まった頃に建てられた建造物を増改築した建物ばかりで、時とともに刻んできた無数の傷がある。
この街は大陸の西地区で3番目に大きい街で、数々の島と交易を結ぶ中心地だ。港の方では、食料から物珍しく何が何だかわからないものまで売っていて、商人と客でごった返している。しかし、内陸部の街は静かで、職人街となっている。
ハロは貝を加工したアクセサリー店を曲がり、細い路地を通った。薄暗くて、かび臭い匂いがする。いつもサダオの店まで行く近道だった。そこを出た時、きゃっという声が上がった。ハロは慌ててブレーキを引いた。
「ちょっと!このあたしを轢き殺す気!」
 少女は言った。見慣れた顔だ。可愛い顔なんだけど、可愛くない。
「ごめんクルミ。小さくてアリかと思っちゃった。」
 ハロは、自転車からおりた。そして店の前に自転車を停め、鍵をかけた。
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