心 ―ハジマリノウタ―


こうすれば、もう大切な者が傷つくことはない。


これが一番いい選択だ。


私が元に、戻ればいいだけなのだから。


リブが私の名を叫んで手を掴んだ。


私はその手を、そっと離して

フェイクに歩み寄った。


もう後戻りはできないのだ。


大切な者のため、もう一度心を捨てよう。


それで、私の大切な者を救えるのなら。


フェイクが指を鳴らした。


パチン、という音と共に、

リヴィアもレイもリオもリブもメイも

皆姿を消した。


下で絶望と希望のまま戦っていた能力者も

アジトへ戻ったのだろう。




「良かった、一緒に来てくれて」




ただガラスのドームに残された私は

フェイクの言葉にも、何も言わず、

ただそこに立っていた。


もう、私に心はいらない。


再び失い、もう取り戻すことは無い。


フェイクは私の前に回ると、

屈みこんで、私の手をとった。


そして、そっと唇を押し当てた。




「ユアには、俺とずっと一緒に居てもらうから。

いいね?」




私は、奴隷のように、あの頃の私のように、

無言で頷いた。


これでいい。


これが、正しい道なのだから。



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