心 ―ハジマリノウタ―




「ああ、ユア…!

本当に?」




何度も確認を繰り返し、私も何度も頷くと、

フェイクはギュッと私を抱き締めた。


その腕の力は、いつでも優しい。


力を入れすぎると

私が壊れてしまうから、と優しく。


けれど、抱き留めなければ

私が消えてしまうから、と強く。


私は、冷たい腕に抱かれながら、

何処かに温もりを感じて、目を閉じた。





「ユア、ありがとう。すごく嬉しいよ。

きっとそろそろ呼び出される頃だ。

ショックを受けるかも知れないけど、

俺が傍についているからね」




フェイクはそう言うと、少し離れて、

照れたように笑った。


そして、初めて来た晩のように

私の長い黒髪にそっと触れた。


その表情には、安堵が浮かび、

先ほどまでの緊張は影も無く消えていた。


見つめる視線に気付いたのか、

フェイクが私を見て微笑んだ。




「ねぇ、ユア。

歌ってよ、俺のために」




私は静かに歌い始めた。


響く旋律に、フェイクはいつも目を瞑る。


フェイクは背もたれに背中を任せて、

目を瞑ったまま旋律を楽しむように

上を見上げた。


肌に、優しいシャンデリアの

蝋燭の光が揺らめく。


本当に私の歌は、

もう奴隷を苦しめることも、

灰に変えてしまうことも無い。


心を捨てようとしているから?

あのアジトを出たから?


そんなことは分からない。


そして、分からなくてもいい。


ただ分かることは…

私の歌にもう、大切な者を守れる力は

無いのだ。



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