心 ―ハジマリノウタ―
「まあ、それにカトレアが居るからね」
知らない名前だった。
私が再び顔を上げて、フェイクを見ると、
彼は優しく笑って、私の髪を撫でた。
「さっき、ジグの隣に居た黒髪の人だよ」
あの美しい女性。
カトレア。
その名は、彼女に相応しい名前だった。
「とても…綺麗な人でした」
「ああ、確かにね。
彼女は、俺たちの母親みたいな存在なんだ。
それなら、ジグは父親かな」
そして、少し躊躇った後、
小さい声で付け加えた。
「多分、カトレアは…
俺たちの中で一番初めに造られたんだ」
眉を少し下げたフェイクの瞳に、
悲しみが翳った。
彼らにとって、人間ではないという事実は
とても、苦しいことなのだろう。
フェイクは…
いや、ハートを持つ者は
心を持たぬ私よりも、
ずっと人間に近いというのに。