心 ―ハジマリノウタ―




移動方法は、不思議な通路を使った。


カトレアがポケットから取り出した金色の輪が

途端に大きくなり、

その中に暗闇を作り出した。


カトレアはその様子を見守っているジグに

軽く声を掛けて、

迷いなく、その中に吸い込まれて行った。


フェイクも、ジグに一礼すると、

私の方を見向きもせずに

闇の中に姿を消した。


私がそれに倣おうとすると、

ジグが私を引き止めて言った。




「ユア、すまないな」



「何が、でしょうか」




ジグは淡い瞳で私を見つめながら言った。


そういえば、ジグが父親だと知ってから

2人で話すのは初めてだった。


彼は今、どんな思いでいるのだろうか。




「いや…。

お前には辛い思いばかりさせてきた。

だが、心は戻ったはずだ。

お前が、望むように選択してよいのだ」




ジグの言いたいことが分からなかった。


だが、私は頷いた。


分かっている。


私の望みは一つだけだから。


彼らが無事で、

この世界のどこかで生きていること。


それだけだから。



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