心 ―ハジマリノウタ―


そんなドレイも

人が動くのに酸素と養分が要るように、

食事が必要だった。


それにあたるのは、

一日の最後に決まってされる注射。


どんなに従順なドレイでも、

この時だけは主の命令に背き、

暴れ、苦しみ、悶える。


注射をうたれたドレイは、

最後に痙攣し、翌日まで動かない。



心亡き者は、人と同じく、

走れば息が上がり、

酸素が回らなくなれば死ぬ。


空腹も感じれば、痛みも感じる。


しかし、私達は主に抵抗などしない。


例えその命が尽きるまで殴られようとも、

主の命令と在れば、されるがまま。


なぜなら、私達には心という、

人間に必要不可欠なものが存在しないから。


ドレイ工場に囚われた心。


奪われた心は何処に?


私達は知らない。


知ることを求めることもしない。


哀しい、楽しい、寂しい、嬉しい。


怒り、妬み、喜び、更には愛。


どの感情も私達を揺さ振ることはない。


感じることも無い。



嗚呼、

これほど人間に程遠い人間が

この世に存在するだろうか?




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