心 ―ハジマリノウタ―
ある夜、私は見張り番に呼ばれた。
長い黒髪に
ぼろぼろの布切れを纏いながら、
ふらふらと見張り番の後ろを歩く私。
奴隷は乗ることの許されないエスカレーターに
見張り番と共に乗り、
目指すは主達のオフィス。
そこに住む者も居れば、街から通う者も居たが、
大抵彼らは夜遅くまでそこに居た。
広く取られたエレベーターの中で
ざらついた声で見張り番は私に命令する。
「いいか。
お前は今から主様の元へ行く。
全て言われたことをやるのだ。
分かったな?
言われたこと以外のことはするな」
主の命令は絶対。
これは幼い頃に受けた教育の中で
一番初めに覚えたこと。
今更いわれることなど必要ないくらい、
身体に刻み付けられている。
私はただ、はい、とだけ頷いた。