心 ―ハジマリノウタ―
「いつまでも囚われているのは良くない。
ロックも、弟子を取らせたい、
とそう言っていた」
ロック…。
彼はこのアジトの責任者であり、
一番信頼できる人物だった。
けれど、彼はあたしの過去を知らない。
この眼帯の傷も、アトネスも。
彼は何一つ尋ねないし、
詮索もしない。
だからこそ、彼はその地位につき、
このアジトをまとめ上げることができる。
「考えて見ますが、ユアは嫌です」
あたしは、避けているのかもしれない。
傷つくことも、戦うことも。
「ほう、何故?
なかなか気に入ったのかと
思っていたが?」
「ユアは、奴隷である自分を
捨てられないでしょう」
老人の灰色の瞳が、あたしを見据えた。
その瞳と同じくらいあたしは、
あの子が怖かった。
あたしは数時間前のことを思い返していた。