心 ―ハジマリノウタ―
あたしがその時、感じたのは、
怒りだった。
恐怖なんかではない。
何もしようとしないユアに、
怒りを感じたのだ。
だから、あたしは命令した。
「ユア!
そこにあるタオル、取って!
早く!!」
あたしの怒鳴り声に、
ユアは眉一つ動かさず、
タオルを持ってきた。
急いで、タオルを受け取って、
傷口に当てる。
見る見るうちに血が
タオルを染めていった。
周りの人はとっくに、
治療班を呼びにいった。
ただそこに居たのは、ユアだけだった。
血を見て動揺した様子も無い。
怖くなって、逃げ出す様子も無い。
ただ、あたしとその男の様子を
見つめている。
あたしは、ユアを見た。
ユアもあたしを見ていた。
その途端、寒気が走った。