心 ―ハジマリノウタ―




あたしがその時、感じたのは、

怒りだった。


恐怖なんかではない。


何もしようとしないユアに、

怒りを感じたのだ。


だから、あたしは命令した。




「ユア!

そこにあるタオル、取って!

早く!!」




あたしの怒鳴り声に、

ユアは眉一つ動かさず、

タオルを持ってきた。


急いで、タオルを受け取って、

傷口に当てる。


見る見るうちに血が

タオルを染めていった。


周りの人はとっくに、

治療班を呼びにいった。


ただそこに居たのは、ユアだけだった。


血を見て動揺した様子も無い。


怖くなって、逃げ出す様子も無い。


ただ、あたしとその男の様子を

見つめている。


あたしは、ユアを見た。


ユアもあたしを見ていた。


その途端、寒気が走った。




< 92 / 534 >

この作品をシェア

pagetop