World of Game
あれやこれや言っていた小夜を半ば引きずるようにして部屋へと入れ、皆を集めた。


「さて、何があろうと今日だ。気は抜くな。

何が起こるかわからない。あくまでこれは試作品だ。失敗する可能性だってある。

――ただ、俺達の目標はそっちじゃない。
こいつ。砺波を無事に帰すことだ。
それだけは肝に刻んどけ」


皆、神妙に頷く。
小夜は何だか此処まできて胸にこみ上げてくるものがあった。

それを言葉にする術はまだ、知らない。


あの大量に詰め込まれた知識の中にさえ書いてなかったものだ。


「じゃあ、準備を始めろ」


弥生の一声で皆思い思いに動き始める。

普通に動く人も、侵食のせいでぎこちなく動く者もいる。


そうだ、と一つ思い浮かぶことがあった。

皆の名前を聞いていない。
おんなじ境遇なのにいなくなる協力してくれている皆。

そんな人の名を知らないままなんて、酷いと思う。


丁度、一人目の前を通る子がいた。


「あの、」


その子は立ち止まってくれた。
此処まできて改めて聞くのが恥ずかしい気もする。

「皆はあたしの名前を知ってると思うけどあたしは――」

「砺波!」


声に振り返ると、弥生がこちらに歩いてくる。
小夜が声をかけた子に行け、と目配せで言った。

その子は怪訝そうにする様子も気を悪くした様子も無く作業を再開した。

弥生は小夜を端まで引っ張っていくと、厳しい口調で言った。


「皆の名前なんか聞くな」


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