World of Game
「ふぅ、此れで終わりか?」
店も閉め、後始末にグラスや食器を綺麗に拭き終え、布巾をたたみながら緋翆が聞いた。
その食器をしまいながら、小夜は時計を見、もう随分と遅い時刻であることに気付いた。
「あ、うん。ゴメンね、もう帰らないとだね」
「ああいや、そっちは心配要らない」
緋翆も手伝い、最後の食器をしまう。
残る仕事は戸棚の簡易な鍵を閉めるだけ。
だが小夜は手を止め、ぼーっとホールの方を見つめていた。
視線の先にあるのはホールの片付けを行っている、槙と碧。
流石に、慣れた手つきでテキパキと店を片付けていく。
緋翆はふいに、なんとなくその視線の意味することがわかった。
同時に何かもやもやしたものが底から溢れ出るのを感じる。
自分の中に渦巻く感情に内心顔をしかめながらもう一度視線を槙と碧に向けた。
すると槙と目が合った。
槙は緋翆を見てはっとしたように時計を見て言った。
「悪い、お前らのこと忘れてたよ。碧さん、もう上がってくれ」
「やたっ! 緋翆引っ張ってきてよかった!」
いつもより早く上がれることに碧は喜び跳ねながら更衣室に消えた。
姉の散々な扱いにため息をつくと共に先ほどの感情を押し込める。
「俺が送ってく。小夜、残りの後片付け頼むな。えーと…緋翆君?
車出すから、通りで待っててくれ」
槙は一度奥に引っ込んで車のキーを取ってきて緋翆を促した。
緋翆は小夜に挨拶をして、槙に続いて店から出て行った。