紫陽花の咲く丘で
「大丈夫か清水」

倒れている雪を起こし、ずれた眼鏡を掛けなおす。
それからこっちを見て、

「清水と井村、それに川原。今までどこにいたんだ」

とため息をつきながら話す。

「・・・井村さんがお腹痛いって言うので、
そこの公園で痛みが治まるのをまっていました。
私と清水さんは井村さんを一人に出来なくて付いていました。
連絡をしなくてすみません」

こういうときに頭というか口というか、まあよく働く巴が口からでまかせを言う。
私達はそれに馴れているので、話を合わせるだけでいい。

本当かと目で問う彼に、私は頭をさげる。

「すみませんでした・・・」

雪も彼の隣で頭をさげる。

「大丈夫なのか井村」

「はい。もう平気です」

そう言うと彼は、私達と歩き出す。
しばらくすると重苦しい雰囲気に耐えられなくなったのか
巴が雪を連れて駆け出す。

「私と清水さんは先に行っています。
先生、井村さんをよろしく」

と勝手なことを言って走って行ってしまった。
私は口を挟むひまもなく、呆然と二人を見送った。

・・・・・・・二人を沈黙がつつむ。

巴のうらぎりもの~。一体何をどうしろっていうのよ。
彼がクシャッと私の頭をつかむ。
「あまり心配させるな」
隣で彼、神崎 優斗が言う。

「新米教師だものね。
初担任のクラスに問題児がいたら迷惑よね」

私は彼の手を払いのけて言う。

彼は何も言わない。
いつからだろう?
こうやって歩いていると、
沈黙が二人を包むようになったのは。
以前のように、じゃれあって歩けなくなったのは。

―答えはわかっている・・・私にかわいげがなくなったから。
いくら周りが子ども扱いをしても、私は子供じゃないから。
私は何も知らなかった子供にはもう・・・もどれない。

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