波の音がずっと聞こえてる
どのくらい時間がかかるか、
そんなことはわからない。
ひと晩?
明日?
それ以上?
考えてもわからないことは、
たぶん考えなくていい。
直感で気づく。
だから、
歩き始める。

どうやら財布だけは、
手に持っている。
鍵は締めただろうか、
記憶があやふやだけれど、
部屋はわたしのうしろに置いてきた。
カーテンは閉まっているが、
窓は開いているはずだ。
それより、海へ行かなければ。

鍵がかかっていない不安は、
海へ急ぐ気持ちより、
ずっと小さなものだったし、
そんなに器用ではないから、
背中を向けたことまで
気にしていられない。

そう、
わたしは、
わたしの居場所に、
背を向けてまでして、
海へ向かってる。

そのことに気づくと、
すこしだけ
誇らしかった。

だからわたしは、
日常を捨てて、
海だけを目指し、
歩いていける。

前へ進める。
< 3 / 12 >

この作品をシェア

pagetop