幸せの契約
「勝手に入ってこられては困ります。」


犬居さんが冷静にでも威厳のある声で二人を責める



「すみません。
でも、私たちはその子の里親だ。鈴ちゃんに会う権利はあると思うがね?」


嫌味のような口調


「それでも、ここは鈴様の屋敷です。主人の許可なくあなた方をお入れすることは出来ません。

お引き取りください。」


負けず劣らず
犬居さんは言う


一緒に来た女は若干犬居さんに見とれてる様子で

気まずそうに男を見た


「鈴様か…。
ずいぶんと偉くなったもんだね?鈴ちゃん。」



蛇のような絡み付く鋭い視線が私を突き刺す


昔の出来事が走馬灯の様に頭を駆け抜ける

私は恐怖で従わずにはいられなかった


「いいんです。
犬居さん…。二人を応接室へ案内してあげてください。」


私は震えを圧し殺して
犬居さんに言う


驚きを隠せない様子の犬居さん

でも
さすがはプロの執事


さっきとはサッと切り替えて従順な使用人に戻った


「失礼いたしました。
こちらへどうぞ。」


頭を下げて
左手を応接室へ向けた


「わかればいいんだよ。」

吐き捨てるような男の言葉

私は怒りを覚える余裕すらなかった
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