幸せの契約
気が付けば日付も変りかけ
二次会のカラオケが終わった頃には

私は足元がフラついていた


「平瀬さん大丈夫?」


矢倉くんがふらつく私を支えてくれる


「なんか飲みすぎたかも。
そろそろ帰らなきゃ。」



回らない頭を何とか回転させて携帯を探す


「もしかして、迎えってあの車じゃない?」


矢倉くんが指差す方を見た
黒木さんの車が滑り出すように私の前に来て止まった

降りてきたのは

「犬居さん?」


視点が合わないなかうっすら見える

黒髪に長身の燕尾服姿

「犬居さんだぁ!」


私は子供の様に犬居さんに両手を伸ばして駆け出そうとした



ガクンッ!


いきなり視界がブレる


そして
ゆっくり地面に向かって動く視界



あ、打つかる!?



両目を閉じた時

力強い腕が私を抱き止めた


きっと
犬居さんだろうな



私はゆっくり顔を上げる


「犬居さ…」


「大丈夫?危ないなぁ平瀬さんは。」


そう言って目の前で微笑むのは矢倉くんだった



「あれ?」


私をゆっくり立たせてくれる矢倉くん


犬居さんは駆け寄る直前の格好のまま立ち尽くして私を見ていた


「足元には気を付けるんだよ?平瀬さん。」


そう言って私を支えたまま犬居さんの前に歩いていく


「お迎えに上がりました。鈴様、こちらへ。」


差し出された犬居さんの手に私は躊躇うことなく手を伸ばした


クンッ

と何かに肩を引っ張られて犬居さんが遠くなる


「またね、平瀬さん。」


そう言って
矢倉くんの唇が私の右頬に触れた
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