幸せの契約
「純一はひろ子さんのそばを片時も離れず、世間の目も声も二人は一緒に耐えて乗り越えていった。

しばらくして、ひろ子さんのお腹に新しい命が宿った。二人は手放しで喜んだ。私も自分の事のように祝福したよ。


だが、当時は障害者が母親になるなんてことは誰も認めていなかった。

ひろ子さんは両親に妊娠が知れたら堕胎させられると怯え出すようになった。

純一も大学生でひろ子さんと子供二人を食べさせていくお金は無かった。

そこで私は自分の貰っていた小遣いを純一に毎月渡すと提案した。純一は反対したよ。

『いくら家が金持ちだからと言っても親友から金をもらうことはできない。』

純一は頑固だったからね。それでも、私は引き下がらなかった。

ひろ子さんは純一の彼女でもあり、私の親友だったし、お腹の子供は自分の子供の様に思えたんだ。


とうとう
純一も折れてね。


二人は安いアパートを借りて生活をし始めた。

純一は昼は大学、夜は工事現場、朝は新聞配達と骨身を惜しまず働いた。

二人は幸せそうだったよ。私は何もかも上手く行くと思っていた。」



蔵之助さんが遠くを見つめて伏し目がちに視線を落とした
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