灰色のセカイ


「こんばんわ」
「こんばんわ」

夜、面会時間を過ぎた時間にぼくは病院へ訪れた
もちろん特別許可を得て来ているから文句は言われない

看護婦の姉さんが頭を下げ、それを返すようにぼくも頭を下げた

毎日大変ですね、
と言われながら
いつも行く病室へ
案内してくれた


個室はとても静かだ

消灯時間にならない限り、6人部屋はじぃちゃんばあちゃんばかりの部屋でもTVの音とか世間話とかで少しは物音が聞こえる


カーテンが閉まり
TVの音もなく電気が点いてなかったら
人がいるとは思えないくらい静かだ


「じゃあ、いつもどおり30分後ということでお願いします」

いつもの決まりごとを看護婦さんが言う

電気を点けて看護婦さんは部屋から出ていった


バタン、と
ドアが閉まる前に
ぼくは美咲の元に行き静かに眠る彼女を見た

パイプ椅子に腰を下ろし
フゥー
と、溜め息一つ

毛布の上に乗せられた左手
毎晩、握る手のために布団の上に置かれている

今日も美咲の手を握る
13年間眠り続けた少女は細くて白い
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