スタートライン。

赤い糸

 私と彼の出会いは奇跡的だった。奇跡的に出会い奇跡的にお互いに惹かれあった。お互いに必要とした。

 奇跡的な出会い。それを握る鍵はほかでもない、『携帯電話』。
 

 私たちは出会い系サイトにお互い書き込みをして出会った。

 初めて携帯を手にして、『メル友』を探す私。

 暇つぶしに『メル友』を探す彼。

 私が書き込んだ内容。それは、『天ボケです。あずき。』

 まぁ、意味のわからない書き込みで。そんな私にメールで付き合ってくれる人はきっとユーモアたっぷりな面白い人だろうと願って。

 次々に送られてくる膨大な量のメールにびっくりする。とっさに決めた。


 『一番初めに送られてきた人にだけ返信しよう。』

 その一番初めに送られてきたメールの送信者が彼だった。

 『時差ぼけです。大輔。』

 私は一人、待ち受け画面の光がほんのり照らす光の中でにやっと笑った。

 『ビンゴ♪』

 面白い!!


 私と大輔が親密になるのにそう時間はかからなかった。隠すことなく自分を全てさらけ出した。不思議な気分だった。顔も知らない人、会ったこともない人を信じていた。 変な感じだった。大輔からメールがない時間、携帯電話をチラチラ見てしまう自分がいた。24時間、大輔を想っていた。バイト中も食事中もいつでも大輔を想っていた。

 お互いに意識をしていた。意識するというのを通り越して私は既に彼を心から思っていた。メールの中だけの、文字だけの繋がり。それはきっと赤い糸だと信じていた。彼が遊び半分で嘘の文字を並べていたとしても構わない。私は彼を信じることしか知らなかった。『メル友』を初めて1ヶ月、会う決心をした。部屋のタンスを引っ張り出して入念に着て行く服を選んだ。私の部屋はファッションショー会場の様にごった返していた。夜中にゴソゴソしていたので、不振に思った母が部屋に来て、何事?と言わんばかりに眉をひそめた。

 『デートよ!デート!』

 久しぶりに春が来たのねぇ…。と言われた。だけど、相手が出会い系で出会った人だなんて口が裂けても言えなかった。

 
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