美女は魔獣
聞きなれない大きな音を聞いて、隆也は部屋を覗き込んだ。

そこには、無残にも壊れたカーテンレールと、そこから剥がれ落ちたカーテン、それにさっきの彼女がカーテンをしっかり掴んでしゃがみこんでいた。

「あ~・・・、気がついたんだ・・・大丈夫?」

隆也の声を聞いて、素早く立ち上がり身構える。

「そんなに睨まなくても・・・何もしてないよ」

彼女があまりに睨みつけるので、隆也は近づけず立ち尽くしたままになっていた。

彼女はそっと立ち上がって部屋のなかを、もう一度ぐるりと見渡す。

「ココハ・・・ドコダ?」

何だか片言な日本語で問いかけてきた。

――外国の人?――

「あ、えと・・・さっきこのアパートの下にいたでしょ、君、なんであんなとこにいたの?」

言葉が通じないのか、彼女は黙ったまま動かない。

「・・・君、名前は?」

キュルル~・・・

隆也は違う質問をしたが、彼女が答える代わりに彼女のお腹が鳴った。

「あぁ、お腹・・・空いてるんだ、じゃぁちょうど夕飯が出来たとこだから一緒に食べようか」

隆也が手で“おいで”の合図をすると、彼女は無言のままヨロヨロとキッチンの方へ歩いていく。

テーブルの真ん中には、ポテトサラダとひと口大に切ったステーキ肉がドンと置いてあった。

彼女は動物のように、肉に鼻を近づけてクンクンと匂いをかいだ。

「今日の夕飯はね、高級ステーキなんだよ」

ご飯を茶碗に盛りながら隆也は自慢げに言った。

さっきからしていた良い匂いの元がこれだとわかると、彼女は躊躇せずに肉の欠片を口に放り込む。

途端に、少し焦げた肉の香ばしい香と甘味のある肉汁が口の中いっぱいに広がった。

味わったことのない感覚に驚きながら、もうひと欠片を口に放り込む。

「ご飯も2人分炊いたからね、いっぱい食べなよ」

・・・と、ご飯とお茶を2人分テーブルに持ってきて、さぁ食べようとイスに座った隆也の前には、もうすでに肉はひと欠片も残ってはなかった。
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