堕ちる(仮)
私はこの言葉を聞きたくて今まで生きてきたのかもしれない。


少しだけ未来に光が見えた。


「ありがとう。お母さん。ありがとう」


初めて心から「ありがとう」と言えたかもしれない。


やっとまともに「お母さん」と言えた。


そして今までしてきたことと、今の自分自身に恥じた。


「ワタシはナニをしてきたのだろう?ナニをしているのだろう?」


「美咲?またお母さんと会ってくれる?お母さんのこと許してくれる?
ごめんね今まで」


“ううん、違うの、謝るのは私のほうなの。

せっかく産んでくれたのにごめんね、こんな私で。本当にごめんね。”


喉がずっとヒクヒクして言葉にできなかった。


ただただ泣きじゃくるだけだった。


「今度こっちに帰ってくるときは連絡して。
おじーちゃん、おばーちゃんも美咲に会いたがってるよ。
誰も怒っていないから。いつでも帰ってきてね。
そのときはおいしい料理作ってあげるから」


うまく言葉が出ない。


「…わかった…」


「じゃー、何かあったらまた連絡ちょうだいね」


「うっうん」


「元気でね、おやすみ」


「おやすみ…」


プープープー


 携帯を抱きしめ泣きじゃくった。


私もまだこんなに泣く感情があったんだ!


そういえば涙なんて家出をして連れ戻されたとき以来流していないかもしれない。


やっと人間としての心が戻った気がした。


その夜はずっと携帯を抱きしめて眠りについていた。


 次の日から世界は明かりを取り戻したように光り輝いていた。
 

太陽は私を優しく、暖かく包んでくれた。


仕事にもプライドを持ち始めた。


今、お客さんと二人でいる空間を最上のものにすることが私の使命だと思った。


そうすることで私の指名も増えていった。
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