葬儀屋少女
純粋なる、恐怖。

「あら。あの子に惹かれたのじゃなくて?貴方。」

漆黒の中、漆黒の少女が問い掛けた。

「告白でもプロポーズでも結婚でも、してよくてよ。」

少女の口調はどこか緩やかで青年は微笑を浮かべながら応えた。

「いや。憎しみの卵を見つけたからさ。」

「卵?雛が孵らないと意味はないもの。」

月明かりが屋敷に差し込んだ。
初めて少女の素顔が見える。
青年は息をのんだ。

艶のある漆黒の黒髪から見え隠れする純粋な、紫色の瞳。
なきぼくろが整いすぎている少女の顔のアクセントとなっていた。

―――美しい。

ただ、それだけのこと。

「あら。」

しかし、それも一瞬。
月は再び雲に姿をけした。

「…驚いた。」

「?」

「あんたがそんなに綺麗だったなんて。なァ?」

少女は訝しげに顔を歪めた。
青年は相変わらず微笑を浮かべている。

「…孵ったわ。」

「は?」

「行きましょう。」


少女は、ゆっくりと歩みだした。
青年がそれに続く。


闇が、館を占領した―…



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