鬼神の舞
「…そうか。ご苦労だった。」
将之は、短く答えると一総とは視線を合わさず梅兼を手招くと離れへ消えた。
一総は、卑屈そうに歪んだ将之の背を見送ると上がり框に腰を下ろし草履を脱いだ。
その彼の足先に、白い手が持つ濡れた布が宛がわれ一総は、その主の顔を見た。
「一総様…。」
「真白、大丈夫か?」
彼の言葉に、真白は無言で頷いた。
しかし、彼女の黒い瞳はまだ涙に濡れていた。
「焔の事は心配ない。落馬の時の打ち身が暫く痛むだろうがすぐに元気になる…泣かずとも良いぞ。」
鬼面の下から聞こえる声に、真白は頬を赤らめると涙の跡が残る顔を彼の視線から背けると水桶で汚れた布をバシャバシャと濯いだ。
「私…もう泣いてません。」
真白は、一総の童に言い聞かせるかの様な口調に憤慨し少し声を尖らせ布を彼の脛に当てた。
一総は、その様子に小さく笑い彼女を制すとその手から布を取りゴシゴシと己の足を拭いた。