鬼神の舞
「神鳴…。」


焔はそう言ったきり口を噤んだ。


焔は迷った。

鬼になってからの幾年を、彼女は暗闇の中で過ごしてきた。
四季を通して天上に咲く花々や、熟れた果実の芳しい香りを嗅ぐ度に、それらを手に取り両の目で色や形を確かめてみたいと幾度も思った。


だが、それよりも今は…。
下界へ降り、守るべき人間を探すのだ。


その先を考えると、焔の胸は早鐘を打ったように高鳴るのだった。
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