鬼神の舞
「焔には敵わぬな…。」
困りきった表情で一総は言うと、大きな溜息をつき焔の枕もとの鬼面に視線を落とした。
「私の目には、異界の住人や妖怪が見えると気がついたのは三つかそこらの頃だった…寝苦しい夜に、寝床の周りにおかしな気配を感じて飛び起きてみると…妖の姿が見えた。」
一総は、鬼面を見つめたまま幼い頃の記憶を辿りながら静かに語り出した。
話を聞きながら、焔は、灯明の灯りを受け暗い闇に浮かんだ彼の濡れた輝きを宿す黒い双眼をじっと見つめた。
この目に、鬼である私はどんな風に映っているのだろう…。
“お前は鬼なのだな?”と彼の口が告げる事を思うと焔の気持ちは落ち着かず胸の鼓動はトクトクと早くなった。
「妖は…恐ろしかったか?」
焔は、答えを確かめるように一総に尋ねた。