鬼神の舞
「それはそうと…人の道具に宿る付喪神がここを去るとは、どういう訳だ?」
焔の問いに、二人は顔を見合わせ悲しげな表情を浮かべた。
その表情を覗き込み、彼女は先を話せと彼らを促す様に首を傾げた。
“子鬼よ、聞いてくれるか…。我らは九十九の歳月を様々な人の手を渡り歩いて来たんじゃ。”
“ここへ来てからは、かれこれもう十年になるかのぅ。”
二人はそう言うと、記憶を探るような遠い目をしてコクリと唾を飲んだ。
“ここの畑頭は、畑人達の事にも気が回るなかなかのお人じゃ。だから、使われておる者達も良く働く。我らも随分と大切にして貰った。…だが、今年の頭に納屋係になった男がのぅ…。”
“うむ…。気は良いのだが怠け者でな。我らの手入れをさっぱりやらんのじゃ。”
焔は、彼らの言葉に頷き鍬と鋤の上に屈み込むとあちこちひっくり返し傷み具合を確認するように指先でつついた。
“こら、やめろ。くすぐったい!”
付喪神達は、身を捩じらせて悲鳴をあげるとジャリジャリと音を立てて逃げ回った。