鬼神の舞

朝餉が終わり、焔と真白は梅林へ枝摘みに行くことにした。
食事の件は、焔が胃の腑に持病があるとの理由を付け干し飯を小皿に少し貰うことで家人の了承を得た。
病持ちという理由は、必要以上に真白を心配させる事になり焔の心は偽りを言う事への後ろめたさにチクリと痛んだ。


如月の凛と澄み渡った空気の中に、蝋梅の香りが混じっている。
何と清々しい朝なのだろう。
焔は深く深呼吸をすると、花篭を背負い真白と肩を並べ梅林へ向かう道を歩き出した。


「庄士って何?」

焔は、道の途中で真白に訊ねた。


「庄士様は…月に一度庄へ税の徴収と見回りに来られる都の役人様よ。」


ふぅん…。

焔は鼻を鳴らした。
良くわからぬが、庄士とは農民よりは身分が高い人間らしい。
貴族か、上位の武士といった所だろう。


「それじゃあ、一総というのは?」

一総の名が出た途端、真白は今までの穏やかな表情をふっと曇らせた。
何かまずいことを聞いただろうか?
焔は、怪訝な顔をして真白の白い面を見上げ彼女の言葉を待った。

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