鬼神の舞

廣川の庄民が出迎えの準備を進めている頃、庄士一行は里を見下ろす峠に差し掛かっていた。
庄士と馬の頭を並べ道を進みながら、宗方一総は何度も通ううちに見慣れた景色を眺めていた。
残雪が残る切り立った山肌に、常緑樹の緑が美しい。


“それに比べて…こっちは何と趣の無いことか。”

彼は、耳に遠慮なく飛び込んでくる金平将之の取り留めのない話に辟易しふっと嘆息した。


「峠を下れば廣川の庄だ。そろそろ尻の皮も痛くなってきた…馬を急がせるとするか。」

「…。」


都を出て、途中箕舞の町に宿を取りここまで来たが相変わらずこの男は良く喋る。
どうしたら、こうもあれこれ下らぬ話が湧いて出てくるのか。
道々生返事を返しながらここまで来たが、この峠辺りが彼の語りの山場であるらしい。


“こっちも、そろそろ貴方の話に付き合うのも限界の様だ。”

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