鬼神の舞
面を外すと同時に、彼の五感は冴え鋭さを増す。
一総は、春の陽光を傷一つ無い整った顔に受け眩しそうに顔を顰めた。
だが、直ぐに開放された黒い双眼は、貪る様に周りの風景を求め忙しなく動いた。
ざわざわ…
先程よりも木立の葉を揺らす風が強くなり、彼の衣の袖が靡いた。
そろそろ来る頃か…。
一総は呟くと笛の歌口に唇を当て、息を吹き込んだ。
ひょーっ、ひょろろろ
澄んだ音色が、廣川の庄に響き渡った。
畑で仕事をしていた庄民達は、作業の手を止め暫しの間美しい音色に耳を傾けた。